PNHの治療

PNHの根治治療は造血幹細胞移植ですが、重度の骨髄不全や繰り返す血栓症などがみられる重症の若い患者さんに適応が限られるため、PNHの治療はそれぞれの病態による症状を和らげる治療(対症療法)が中心となります1)。PNHの主な病態(病気の状態)は、補体の活性化による血管内での溶血、血栓症、骨髄不全です(図)1)。これらの病態に対する主な治療を以下に紹介します。

図:PNHの病態別治療指針1)

発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.23より改変

溶血に対する主な治療

溶血に対する治療は、慢性溶血と溶血発作により異なります(図:オレンジの枠1)
補体の活性化には3つの経路があります。第二経路と呼ばれる補体経路は常に活性化されていて、終末補体の活性化へとつながります。このため、赤血球の表面に補体制御タンパクが欠けているPNHでは赤血球が壊されてしまうことで、溶血が正常より高いレベルで慢性的に起こっています。
溶血発作は、ヘモグロビン尿を伴う溶血を指します。感染症、ワクチン接種、手術などの外科的な処置、生理、妊娠、分娩などが誘因となり、補体が過剰に活性化するために起こります2)
溶血に対する主な治療は以下の通りです。

補体阻害剤

補体は、自然免疫に関わるタンパク質で、体に異物(ウイルスや細菌など)が侵入した際に、体を守るはたらきをしています。補体には、大きく9つの成分があり(C1~C9)、それぞれが緊密に関係し合って次々に反応が起こることで活性化します。なかでもC3とC5は補体の活性化において中心的な役割を果たしています3)。補体阻害剤は、補体の過剰な活性化を抑えることによりPNHにおける溶血を抑え4)、溶血による症状(ヘモグロビン尿、貧血、黄疸など)5)を改善します。補体阻害剤には、C5より上流にある補体に作用する近位補体阻害剤と、C5を含む下流にある補体に作用する終末補体阻害剤があります3)

副腎皮質ホルモン

副腎皮質ホルモンは、PNHの溶血に対して一定の効果が期待されます4)。補体阻害剤開発前は、慢性溶血と溶血発作のいずれにも使用され1)、溶血発作に対しては溶血の程度を軽くしたり、溶血の期間を短くするために大量投与が行われてきました6)。ただし、感染症が溶血発作の誘因の場合は、大量投与が感染症を悪化させる可能性がありますので十分な注意を必要とします1)

輸血

患者さんの状態により必要な場合は、慢性溶血と溶血発作のいずれに対しても輸血が行われます1)。慢性期において、赤血球数が6~7g/dLの場合に輸血が検討されますが、貧血による症状が強い場合は7g/μL以上でも輸血が行われることがあります。輸血には、赤血球濃厚液が使用されます6)。また、PNHでは血小板減少がみられることが多く、血小板数が5,000/μL前後以下の場合は血小板輸血が行われます6)

鉄剤/葉酸

PNHでは慢性的な溶血により、ヘモグロビン尿などが起るため鉄が減少します(鉄欠乏状態)6)。そのため、貧血に対する一般的な治療として鉄剤や葉酸が使用されます7)。しかし、鉄剤の投与により急速に骨髄へ鉄が供給され赤血球を造り出す作用が強くなるため、重い溶血発作が起こることがあります6)

血漿分画製剤

溶血により赤血球から遊離したヘモグロビンと複合体を形成して、ヘモグロビンを肝臓に運びます。溶血発作に伴う急性腎障害や血栓症の合併を予防する目的で使用されます8)

血栓症に対する主な治療

血栓症の急性期治療では、血栓を溶かす血栓溶解剤や血液が固まるのを防ぐ血液凝固阻止剤が使用されます(図:緑の枠)。また、過去に血栓ができたことがある人やD-ダイマー※の値が高い人など、血栓ができやすい傾向がみられる人には血栓を予防する目的で経口抗凝固薬が使用されます4)

※ D-ダイマーの値が高い場合、体内で血栓ができやすくなっている状態とされています

骨髄不全に対する主な治療

再生不良性貧血の治療に準じます(図:紫の枠1)

骨髄不全に対しては、血液を造る力を回復すること(造血回復)を目指した治療が行われます9)
治療には、①免疫抑制剤、②蛋白同化ステロイド療法、③TPO-RA(トロンボポエチン受容体作動薬)、④骨髄移植、⑤支持療法があります9)、10)

  1. 免疫抑制剤:血液を作り出す細胞(造血幹細胞)を攻撃しているリンパ球を抑えて、造血を回復させる治療法です。抗胸腺細胞グロブリンとカルシニューリン阻害剤が使用されます10)。 
  2. 蛋白同化ステロイド療法:蛋白同化ステロイドは腎臓に作用して、エリスロポエチン(赤血球を造り出すように刺激するホルモン)を出すように作用します。同時に、造血幹細胞に直接作用して血液細胞を増やすと考えられています10)。 
  3. TPO-RA:造血幹細胞に直接作用して血液細胞を増やします。巨核球(骨髄の中にある血小板を造る細胞)にも作用して、血小板を増やす作用もあります10)
  4. 骨髄移植:患者さんの骨髄細胞を他の人の正常な骨髄細胞と取り換える治療法です10)。白血球の型(HLA)が合う兄弟姉妹、あるいは骨髄バンクの骨髄提供者(ドナー)から提供された骨髄細胞を点滴します。最近では臍帯血(母と子をつないでいるへその緒(臍帯)と胎盤の中に含まれる血液)移植も行われています。骨髄移植は、重症度や年齢などにより適応が異なります10)。  
  5. 支持療法:病気の根本的な治療ではなく、症状を改善して生命を維持するための治療です10)。貧血に対しては赤血球輸血、血小板減少に対しては血小板輸血、白血球減少に対しては白血球を増やす生物学的製剤を使用します。また、白血球の減少による感染症(敗血症や肺炎など)に対しては抗生物質や抗真菌薬、抗ウイルス薬を使用します10)。 
  • 1)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.23
  • 2)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.10
  • 3)西村純一 炎症と免疫 29(6): 513-517, 2021.
  • 4)西村純一ほか 日内会誌 100(7): 1994-1999, 2011.
  • 5)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.15
  • 6)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.26
  • 7)大澤勲 腎と透析 86(増): 347-349, 2019.
  • 8)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.27
  • 9)再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. p.11
  • 10)再生不良性貧血の病気の解説(難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/)(2024年9月アクセス)

【監修】大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学招聘教授 西村 純一 先生
作成年月:2024年10月