PNHの検査について
どのような臨床検査がPNHの診断につながるのでしょうか。分かりやすく解説していきます。
臨床検査
自覚症状が、からだの中で起こっている変化の全てをあらわしているわけではありません。そのため、自覚症状だけでなく、血液や尿などの臨床検査で、からだの状態を確認します。診断に必要な検査項目には以下のようなものがあります。
血液検査
血液検査は、血液の中にある細胞の数や成分を測定して、病気のリスクを見つけたり診断したりする検査です。PNHは血液に関連した病気なので、PNHに関連したからだの異常があるかどうかや、その程度を調べるために行います。
血清乳酸脱水素酵素(LDH)値
乳酸脱水素酵素(LDH)は、細胞の中で糖をエネルギーに変えるときに働く酵素の一つです。LDHは、からだ中のさまざまな臓器で作られる酵素ですが、赤血球の中にも含まれます。PNHで溶血が起こるとLDHが血液中に漏れ出し、血液中のLDHの数値が高くなります。血液検査でLDH値を測定すれば、溶血の程度がわかります。
赤血球数
赤血球は、全身に酸素を運び、また、全身で発生した二酸化炭素を取り除く役割をしています。PNHでは、補体制御タンパクが欠けている赤血球(PNHタイプ赤血球)が補体の攻撃によって壊されるので(溶血)、数が少なくなります。赤血球数は溶血や貧血の程度と関連していると言われています。
ヘモグロビン(Hb)値
ヘモグロビンは、赤血球の中にあり、からだ中に酸素を運ぶ役割をしています。PNHでは補体の攻撃によって赤血球が壊されるので、ヘモグロビンも少なくなります。ヘモグロビン値が低いと脱力感や疲労感を感じることがあります。
白血球数
白血球は、細菌やウイルスのような異物がからだに入ってきたときに、からだを守る働きをする血球成分の一つです。PNHは、赤血球や白血球、血小板が減少する再生不良性貧血や、骨髄異形成症候群という病気と関連が深い病気です。これらの病気とPNHが同時におこっていることもあり、白血球の減少がみられることがあります。
血小板数
血小板は、出血した時に止血したり血を固めたりする役割を持つ細胞です。PNHで溶血が起こると、出血した時と同じようにからだの中で血を固めるシステムが働きます。血を固める際に血小板が必要になるため、血小板の数が減ることになります。
網赤血球(もうせっけっきゅう)数
網赤血球は、赤血球が成熟する一歩手前の未熟な赤血球です。PNHで溶血が起こると、成熟した赤血球が壊れるので、足りなくなった赤血球を作ろうとします。そのため赤血球になる前の網赤血球の数が増えます。ただし、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群が同時に起こっていると増えない場合もあります。
間接ビリルビン値
ビリルビンは、赤血球の中にある黄色い色素で、赤血球が古くなって壊れるときに出てくるビリルビンを、間接ビリルビン※といいます。PNHで溶血によって赤血球が壊れると、間接ビリルビンの値が上昇します。
※間接ビリルビンが肝臓に入って変化を受けると、直接ビリルビンになります。
血清ハプトグロビン値
ハプトグロビンは、赤血球から離れてしまったヘモグロビン(遊離ヘモグロビン)とくっついて、肝臓に運ぶ働きを担っています。PNHで溶血によって赤血球が壊れ、赤血球の中にあったヘモグロビンが血液中に漏れ出すと、ヘモグロビンの処理にハプトグロビンが使われます。そのため、ハプトグロビンの値が低下します。
尿検査
血液は、全身に栄養素や酸素を運ぶ働きだけでなく、体中の老廃物や有害物質を集めて腎臓に運び、尿として排泄する働きがあります。そのため、尿検査で血液の異常がないかどうかを確認できます。
ヘモグロビン尿
溶血によって血液中に漏れ出したヘモグロビンは、ハプトグロビンによって肝臓に運ばれますが、処理しきれないものは腎臓に運ばれて尿としてからだから出ていきます。そのため、PNHで溶血がおこると尿検査で陽性になります。
ヘモジデリン尿
ヘモジデリンは、ヘモグロビンが壊れるときにできる鉄を含んだ色素です。腎臓でろ過されたヘモグロビンの一部は、ヘモジデリンに変化し、尿としてからだから出ていきます。そのため、PNHで溶血がおこると尿検査で陽性になります。なお、腎臓から排出しきれない鉄が腎臓の中にたまっていくと、腎臓が悪くなることがあります。
PNHの診断について
診断基準
上記のような症状や検査値でPNHが疑われたら、フローサイトメトリーという検査を行います。以下の項目を同時に満たすと、PNHの診断が確定します。
① PNH タイプ赤血球(補体制御タンパクをくっつけておくことができない赤血球)が総赤血球数の1%以上
② 血清LDH 値が正常上限の1.5 倍以上
PNHタイプ赤血球ってなに?
PNHの患者さんは、赤血球の表面に補体制御タンパクをくっつけておく役割を持つGPIアンカーが作られません(下図参照)。そうすると、補体の攻撃から赤血球を守れなくなり、赤血球が壊れてしまいます。補体制御タンパクがくっついていない赤血球のことを、PNHタイプ赤血球と呼びます。
フローサイトメトリーとはどんな検査なの?
フローサイトメトリーは、血液細胞の入った液体を細い管に流し、細胞を1列に並べてレーザーの前を通過させることで一個一個の細胞を検査します(下図参照)。血液細胞に蛍光の色を付けて、そこにレーザーの光を当てて、蛍光の強さや光の散乱具合などをコンピューターで解析して、PNH タイプ血球があるかどうかや、どのくらいの割合であるのかを調べます。
フローサイトメトリーでPNH タイプ血球があることがわかったら、定期的にPNHのクローンサイズ※を確認します。なぜなら、PNHのクローンサイズが急速に大きくなる場合があるためです1)。
※クローンサイズ
全血球に対するPNHタイプ血球の割合
- 1)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド令和4 年度改訂版, p22
【監修】大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学招聘教授 西村 純一 先生
作成年月:2024年4月