PNH患者さんの体験談 病気に負けない強い気持ちと
積極的な姿勢でPNHに向き合う
(50歳代・女性)

PNH患者さんの体験談 病気に負けない強い気持
ちと積極的な姿勢でPNH
に向き合う(50歳代・女性)

これはPNH患者さんの1つの事例であり、すべてのPNH患者さんが同様な経過をたどるわけではありません。疾患の進行状態によって、症状などは個々の患者さんで異なります。

2回の病気移行を経て、PNHに向き合う

西村さん(仮名)
50歳代・女性

西村さんは、30歳代後半に劇症肝炎のために数ヵ月にわたり入院していました。劇症肝炎が落ち着き、「退院後は自宅療養しながら、職場復帰について考えよう」と思っていました。その後は外来通院を続けていましたが、劇症肝炎を発症した4か月後、血小板の異常を指摘されました。検査を受けた結果、再生不良性貧血(Aplastic Anemia:AA)を発症していることがわかり、再び入院することになりました。退院後はAAの治療に専念していましたが、異常とも思えるような体のだるさが続き、さらにLDH値が高いことを指摘され、主治医から「PNHへの移行」が告げられました。AAの発症から4年後のことでした。

体調と気持ちの変化グラフ

PNHの発症から診断・治療について

劇症肝炎から再生不良性貧血(AA)発症へ、AAからPNHへ2回の病気移行を経験

劇症肝炎の治療中は毎日のように検査値を確認し、数値をグラフ化して自分の状態を把握していました。AAの発症が判明したときは、とてもショックでしたが持ち前の積極性で治療に向き合っていました。ところが、AAの治療を続けても期待したような経過が得られませんでした。「教科書通りの経過ではない」ことから様々な疑問を持つようになり、病気や治療について情報収集をして勉強をするようになり、かえって治療に対してやる気が増し、主治医とも積極的にコミュニケーションを取るようになりました。しかし、しばらくしてから体のだるさが気になるようになりました。劇症肝炎を発症した当時もだるさはありましたが、そのときのだるさとは比べられないほどのだるさでした。例えて言うならば、「やる気をそぐ」、「もう、どうでもよくなる」、「腕を上げるのも面倒くさい」というような、なんとも表現しにくいだるさで、「これは、変だな」と思っていました。主治医には、だるさのせいで体調が優れないことを伝えていましたが、「AAによる症状かもしれない」ということで経過を観察していました。約1年の経過観察の後、LDH値が800U/Lまで上昇したため検査を受けた結果、PNHへの移行が判明しました。肝炎からAAへの発症、AAからPNHへの移行、2回の病気移行に驚きました。

受け身ではなく、病気や治療について積極的に情報収集

PNHと診断されてもしばらくはAAの治療を続け、PNHに対する治療は受けていませんでした。当時、PNHについては「PNH患者さんの中で、私と同じような人はいないのか、症状が改善していない人や悪化した人がどのようにこの病気と向き合っているのか」といったことを知りたくてインターネットで調べたり、PNH患者さんのブログを読んでいました。同じ病気の患者さんから詳しい話を聞きたくて、ブログを書いている患者さんたちに連絡を取り、遠くに住んでいる患者さんにも会いに行きました。そして診断から1年が経過した頃、LDH値が上昇し続けていることや治療の選択肢が増えてきたことを知り、PNHの治療を始めました。治療に際しては、自分でも病気や治療について勉強していたこと、わからないことは主治医の先生に何度も質問して説明していただきました。「受け身ではなく、自分で積極的に情報収集した」ことは、納得したうえで治療を開始でき、治療へのモチベーションにもつながりました。

PNH治療に伴う頭痛を受け入れて治療を継続

PNH治療を開始してLDH値とだるさは改善しましたが、貧血は改善せず、輸血を行ったほうが体調の改善を感じることがありました。また、治療を受けた後は発熱や頭痛があらわれ、頭痛には今も悩まされています。頭の両側を締め付けられるような痛みで数日間続くため、頭痛薬を手放せず日常生活がままならないことがあります。PNHの治療に伴う頭痛なので、治療をやめれば頭痛は改善しますが、PNHの病状をコントロールするために治療を止めることはできません。以前は、頭痛のたびに主治医に相談していたのですが、主治医に対して何かクレームを言っているような感じもするし、頭痛薬である程度は改善するので、頭痛薬を飲みながらPNH治療を続けています。

仕事や日常生活について

自身の体調管理に合ったペースで仕事を再開・継続

仕事については、AAと診断された後、「治療して体調が良くなったら、すぐに仕事を再開しよう」と思っていました。しかし退院後、立ち上がっただけでもめまいがしてふらつき、筋肉も落ちていました。とても忙しい職場での立ち仕事でしたから、体力的にこの仕事を継続するのは難しいと思いました。最終的に、5~6年の休職期間を経て退職しました。現在は月に1日のペースで仕事をしています。仕事の後は体がだるくなるのですが、このペースでの仕事であれば十分な休養を取ることができます。病気になって、仕事についてはずいぶん悩んできました。過去の自分を振り返ると、「焦らず、もっとのんびりしたらよかったのに」という気持ちと、「病状が悪くなっても、もう少し仕事を頑張っていれば築けた世界があるかもしれない」と後悔に似た気持ちがあります。「努力」と「無理」、または「ステップアップのために頑張るつらさ」と「病気によるつらさ」の区別がつかず、悩んだこともありました。でも、「体調を優先してのんびりしたからこそ、今の落ち着いた状態があるのかな」と思っています。

育児と家事は無理せず、自分のペースで

子ども達は幼い頃のことを細かく覚えていないようですが、小学生の頃は子どもながらに私のことを気遣っていたそうです。私がつらそうにしていると、できるだけ自分たちの要求を言わないようにしているようでした。当時の担任の先生からも「お母さんの病気が心配なのか、お子さんは少し悩んでいるようです」と言われたことがあります。私は、病気のことも治療のことも家族に相談するよりも、自分で調べて、自分で決めてきました。子どもたちにも自分の状態を説明していたつもりなのですが、子どもたちにまだ理解できず不安になっていたのかもしれません。貧血のせいで体調が悪く、立ったままではいられないことも多かったので、子どもが学校に登校した後に体を休めて、戻ってきたらゆっくり食事の用意をしていました。家庭のことや育児に関しては、自分の体調をみながらマイペースで対応していました。
また、日常生活では感染症に気をつけています。外出時にはマスクを着け、人が集まる場所にはできるだけ行かないようにしています。感染症に対しては敏感ではありますが、感染症以外のことについてはあまり神経質にならず、自由に過ごしています。

患者会は治療に向き合う勇気をもらえる場であり、心のよりどころ

患者会の存在を知り、入会したのはAAと診断された頃でした。患者会では専門医の先生方の講演を聴くことができ、さらに私たち患者と相談の時間も取っていただけます。初めて参加した時には、専門医の先生方と直接お話ができることに驚きました。患者会の活動を通して、主治医をはじめとして様々な先生方と接するうちに「こんな風に質問すればいいのか」と気づきがあり、「もっと訊いてみよう」と思えるようになり、先生方とのコミュニケーションのハードルが低くなりました。患者会に参加して、真摯に私たちに向き合ってくださる先生方がこんなにもいるということを知り、とても心強く思いました。また、患者同士の何気ない会話もとても貴重です。先生方にわざわざ相談するまでもないような日常生活の些細な悩み事や不安、生活上の工夫などについて情報交換することができます。PNHの患者会には幅広い年代の患者さんがいて、それぞれに悩みや不安を抱えながらも一生懸命に先生の話に耳を傾け、積極的に情報を得ようとする姿をみると「私は一人ではないのだ」と勇気づけられます。私にとって患者会は、「受け身ではなく、自分も努力して治療に向き合っていかなくてはならない」と思える場であり、心のよりどころのような存在です。

同じ病気の患者さんにお伝えしたいこと

地域差のない情報提供・医療体制のためにもPNHに対する啓発活動を

劇症肝炎、AA、PNHと3つの病気を経験して人生設計が大きく崩れ、叶わなかった希望や夢があります。しかし、病気を介して知り合った方々、患者会で得た交流を通して行動範囲が変わりました。そして、外見からは難病とはわからなくて、一般的に「普通だ」と思えることでも、患者本人がどう思っているのかが大事だということに気づくことができました。つまり、検査結果だけでなく、本人がどう感じているのかが一番大事で、それを尊重することが必要なのだということを学びました。このことを社会、一般のみなさんに知っていただきたいと思います。そして、もしPNHの兆候があるならすぐに医師に相談していただきたいです。PNHの初期の主な症状は体のだるさですが、体のだるさをどう受け止めるかは人それぞれで、だるさを我慢している人はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。PNHのような希少な難病は、有益な情報を得られるか、そうでないかによって治療にも差が出ると感じています。地域差のない情報提供や医療体制が必要なのではないでしょうか。だからこそ、医療従事者の方々だけでなく社会や一般の方々に対してもPNHの啓発活動が必要だと考えています。
私は、PNHの治療を始める前に治療費のことで選択を大いに悩みました。PNHは難病指定されている病気で医療費の助成を受けられます※。しかし、治療の個人負担が増えることになるのではないか、また、高額な医療を受けること自体の心理的な負担がありました。実際、私と同じように感じている患者さんは少なくありません。
将来は、治療の負担だけでなく費用の負担も軽減できるように、お薬の量や投与の頻度を減らせるような未来になることを期待しています。または、PNHが完治してお薬を止めることができるようになり、その分の費用でPNHの兆候がある人をより早い段階でみつけることができる方法を研究していただけるようになることを望んでいます。

※難病医療費助成制度を利用できるPNH患者さんは以下の方々です。

  • PNHの重症度が中等症以上の患者さん
  • PNHの重症度が軽症であっても、PNHにかかわる医療費の総額が33,330円を超える月が、支給認定申請月以前の12ヵ月以内に3回以上ある場合(軽症高額該当)
  • PNHにかかわる医療費の増額が50,000円を超える月が、支給認定申請月以前の12ヵ月以内に6回以上(または支給認定を受けた月以降6回以上)ある場合、申請日の属する月の翌月から高額かつ長期の自己負担上限額に変更されます(高額かつ長期)

*医療制度は改訂されることがございますので最新の情報をご確認ください。

難病情報センター、発作性夜間ヘモグロビン尿症(指定難病62) https://www.nanbyou.or.jp/entry/3784 (2025年7月29日閲覧)

難病情報センター、指定難病患者への医療費助成制度のご案内
https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460 (2025年7月29日閲覧)

作成年月:2025年8月