これはPNH患者さんの1つの事例であり、すべてのPNH患者さんが同様な経過をたどるわけではありません。疾患の進行状態によって、症状などは個々の患者さんで異なります。
突然発熱や腹痛に見舞われ、
原因がわからないまま年月が過ぎて
吉田さん(仮名)
60歳代・男性
吉田さん(仮名)は、日頃から風邪もひかず、大きな病気もせず、元気に仕事をし、趣味を楽しんでいたある日、突然発熱から腹痛に見舞われました。発熱後に赤茶色の尿が出たため、クリニックや総合病院など複数の医療機関を受診しましたが、これといった原因がわからないまま年月が過ぎました。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)と診断されたのは、最初に症状があらわれてから4年以上が過ぎた日のことでした。
PNHの症状があらわれてから病名がわかるまで
ある日、突然あらわれた症状
発症当時、私は50歳の半ばで、平日は仕事で飛び回りながら、週末になれば登山やスキーを楽しむなど、病気とは無縁の生活を送っていました。ところが、ある日、突然発熱して、翌日にはこれまで感じたことのないほどの腹痛に見舞われました。普段、お腹を壊すこともなかったのですが、あまりの痛みに胃腸科クリニックを受診したものの異常は見つからず、その日は胃腸薬をもらって帰りました。その翌朝、赤茶色の尿が出てとても驚き、すぐに泌尿器科を受診しましたが、「ここではわからないので、大きな病院に行ってください」と言われました。大きな病院を受診した時には熱や腹痛といった症状はすでに治まっており、尿の色も元に戻っていたので、「尿管結石かもしれないけれど、よく分からない」という診断結果で、特に治療もせず、元の日常生活に戻りました。
原因がわからず、もどかしい日々
それから2年半ぐらいは特に体調不良を感じることもなく過ごしていましたが、北海道にスキーに行った時のことでした。初めて症状があらわれた時と同じように、発熱した後に腹痛があり、赤茶色の尿が出ました。この時も複数の医療機関を受診しましたが、原因はわかりませんでした。症状も前と同じように2、3日で治まったので、正直、あまり深刻に考えていませんでした。
その後も同じような症状があったのですが、「また2、3日くらいで治まるから、大丈夫だろう」と思いながら過ごしていました。 ところが、少しずつ日常生活に変化があらわれ始めました。重いものが持てなくなったり、上り坂が辛かったり、ジョギングしてもすぐに息が切れてしまったり…。とても疲れやすくなっていました。赤茶色の尿も数ヵ月おきに出るようになっていたので、体のことが気になりはじめ、あらためて医療機関を受診しました。内臓の出血が疑われ、腎臓や膀胱などを中心にCT検査や内視鏡検査で出血箇所を探しました。また、ビリルビン値がとても高かったため、肝機能も検査しました。それでも出血箇所は特定されず、この時は「突発性腎出血」と言われ、腎臓からの出血を止める薬なども処方されました。今思えば、出血ではなかったので、そのお薬が効かなかったことも納得できます。日が経つにつれて、運動だけでなく、自宅の階段を上がることも辛くなってきて、これまで普通にできていたことが少しずつできなくなってきました。
ようやく知ることができた自分の病気
「何かおかしい」と感じていましたが、原因もわからずもどかしい日々が続きました。自分なりに本やインターネットでいろいろと調べてみたり、これまでの検査結果も見直してみました。ビリルビンやLDHの値が高いことから、血液の病気を疑いはじめました。これまで血尿だと思っていた赤茶色の尿の原因は、腎臓からの出血ではなく「溶血」というものかもしれないこと、自己免疫性溶血性貧血やPNHという病気があることなどを知り、血液の病気の疑いを徐々に強めていきました。
そんな時、職場の健康診断で「貧血症状あり、要検査」の指摘がありました。そこで、「もしかしたら、血液の病気かもしれない」という自分の疑念を解決するためにも、これまでもかかったことのある病院の血液内科を受診することにしました。血液内科では、私の症状の特徴にすぐ気付いてもらい、あらためて血液検査した結果、PNHという確定診断がつきました。初めて赤茶色の尿が出てから4年以上も経っていました。患者数の少ない希少疾患で、クリニックや他の診療科では診ることの少ない病気と聞き、なかなか診断がつかなかったのだろうと思いました。
PNHという病名がわかってから現在まで
PNHという診断がついて
患者数が少ない難病であることや、病状が進行していること、これからも付き合っていかなければいけない病気であることなど一通りの説明を受け、複雑な気持ちになりました。確かにこれまでも貧血の症状は辛かったのですが、苦しい発作を体験したわけではなく、治療法があることも聞き、今後の治療に向けて気持ちを前向きに切り替えるようにしました。
治療をはじめるにあたり、先生は治療の内容や指定難病医療費助成制度などについても説明をしてくれました。また、この病気の患者会にも入会し、最新の情報を得たり、同じ病気の患者さんから話を聴いたりするようにもしました。治療をはじめたら、どのようなことに気をつけなければいけないかなどの情報をきちんと理解していれば、冷静に病気と向き合うことができると思ったからです。
PNHの治療を続けながらの生活
治療をはじめてからは、PNHという病気を自分の一部として受け入れ、治療と生活を上手く両立して過ごしています。自転車や登山なども好きですが、体を動かすのが辛かったときにはじめた油絵やカメラなど、いまはスポーツ以外の趣味も増えました。
ただ、いまでも不安が完全に消えることはありません。体調が良い状態が続くと、その反動で「今度はもっと辛い症状がでるのかな…」といったネガティブなことを考えてしまうこともあります。しかし、あれこれ悩み過ぎずに、いま出来ることをしようという気持ちが大切かなと思っています。
同じ病気の患者さんにお伝えしたいこと
私は書籍やインターネット、患者会などを通して病状や治療方法についての知識をつけておくことは必要だと思っています。先生の説明もよく理解出来ますし、こういうときにはこういう症状が出やすい、といったことも分かります。「知らないこと」が不安につながるということもあると思います。
診察の際は、先生の説明を受け身で聞くだけでなく、「こんな治療もあるそうですが、私の場合はどうでしょうか」「予防接種は打った方がいいでしょうか」「血液検査の項目に〇〇を追加していただけますか」など、こちらから先生に積極的に質問やお願いをするようにしています。ささいなことでも、気になったことはどんどん医師に聞いたほうがよいと思っています。
私はPNHという病気になって、何かをやりたいと思ったら「いつかやろう」ではなく「すぐにやろう」とこれまで以上に考えるようになりました。これからも、新しいことに積極的にチャレンジしていきたいと思っています。やりたいことはまだたくさんあります。PNHだからと言ってあきらめるのではなく、治療を続けながら生活を楽しんでいきたいと考えています。
(60歳代・男性)