PNHという病気をきちんと理解しましょう
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)は非常にまれな慢性の病気で、治療が難しいため国の難病に指定されています。
この病気は、どのような人がいつ発症するかわかりません。ほかのさまざまな病気でみられる症状とよく似ていたり、人によってあらわれる症状が異なっていたりするため、診断が難しく、進行もわかりにくい病気です。
しかし、近年ではPNHについて多くのことが解明され、治療法も進歩し、PNHをコントロールできるようになってきました。また、情報の発信やサポートの体制も整ってきました。
まずは、あなたやご家族がPNHという病気をきちんと理解し、担当医師とよく話し合うことがPNHとうまくつきあう第一歩になります。
PNHとはどんな病気
PNHは、血液細胞のもとになる造血幹細胞と呼ばれる細胞が、突然変異を起こし異常な赤血球( PNH型赤血球→下図参照) がつくられてしまう病気です。赤血球は血液の重要な成分のひとつであり、酸素を体中に運び、二酸化炭素と交換する役割を担っています。PNH型赤血球では、正常な赤血球の膜表面に存在する、補体制御タンパクが欠けています。
PNHになると、からだの中で何が起こるのか
「補体」は、体内に侵入した細菌などの外敵を攻撃して、感染症などからからだを守っています。自分のからだが補体からの攻撃を受けないのは、自分の細胞を守るための補体制御タンパクがあるからです。
しかし、補体制御タンパクが欠けたPNH型赤血球は補体の攻撃を受け、壊されてしまいます。赤血球が壊されることを「溶血」と呼びます。
ごくわずかな溶血は健康な人でも起こっていますが、PNHでは、溶血が常に正常より高いレベルで起こっています。溶血が起こると、赤血球の中からヘモグロビンという酸素を全身に運ぶ物質が流れ出てきて、さまざまな症状を引き起こすとともに、いろいろな合併症のリスクを上昇させます。溶血は、PNHで起こる症状や合併症の主な原因です。
日本のPNHの患者数
正確な患者数はわかりませんが、令和3年度のPNHの特定医療費(指定難病)受給者証の所持者数は959人と報告されています1)。
男女比はほぼ1:1であると考えられています2)。
診断時年齢は20〜60歳代にまんべんなく分布しており、中央値は45歳でした2)。
PNHは遺伝することはありません
PNHは遺伝子の突然変異で起こる病気ですが、遺伝することはありません。後天性の病気です。
後天性とは、生まれた後でさまざまな原因でもつこととなってしまった病気や障害の性質のことです。PNHは遺伝子の突然変異で起こる病気ですが、生まれつきのもの(先天性)ではなく、遺伝することはありません。
PNH「発作性夜間ヘモグロビン尿症」という病名の由来は?
PNHはparoxysmal nocturnal
hemoglobinuria(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の略です。
この病名は、朝の尿が「夜間」の「発作(突発)的」な溶血によって茶褐色の「ヘモグロビン尿※」となることに由来します。
しかし、実際にはヘモグロビン尿が観察されるのは、PNH患者さん全体の約3分の1といわれています。
ヘモグロビン尿がみられなくても、PNHの患者さんの体内では、夜間にかぎらず慢性的な溶血が起きています。
※ヘモグロビン尿
ヘモグロビンが存在する尿のことです。ヘモグロビンは赤褐色なので、尿の色が濃く、時に“コーラ色”になります。ヘモグロビン尿による尿の色の変化(肉眼的ヘモグロビン尿)はPNHの重症度の分類にも用いられ、恒常的に認められる場合は「重症」に分類されます。
- 1)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の病気の解説(難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/)(2024年3月アクセス)
- 2)Nishimura J, et al. Medicine (Baltimore). 2004;83(3):193-207.
【監修】大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学招聘教授 西村 純一 先生
作成年月:2024年4月