発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断と検査

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断フローと診断基準

PNH患者さんの適切な治療と長期予後のためには早期診断が重要です1)2)
溶血所見が認められ、PNHが疑われたら、フローサイトメトリー検査を行い、PNH型赤血球(Ⅱ型+Ⅲ型)が1%以上、かつ血清LDH地が正常の1.5倍以上認めれば、臨床的PNHと診断されます(図1)3)
発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド令和4年度改訂版における診断基準を示します(表1)3)

図1:PNHの診断フロー 図1:PNHの診断フロー

図1:PNHの診断フロー

表1:PNHの診断基準 表1:PNHの診断基準

表1:PNHの診断基準

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の検査

PNH の診断には、フローサイトメトリー検査を用いたGPI アンカー型タンパク質の欠損血球(PNH型赤血球)の検出と定量が必須です3)
フローサイトメトリー法は、PNH 患者で欠損している補体制御因子のCD55(DAF)やCD59(MIRL)などに対する標識抗体を用いてPNHタイプ血球を検出、定量します。
フローサイトメトリーによる健常人のヒストグラムとPNHヒストグラムは図24)のように異なります。
PNH タイプ血球を早期に検出するためには、末梢血顆粒球を用いることが推奨されます。
顆粒球は輸血の影響を受けないので、PNH タイプ血球の比率を経時的に観察する上でも有用とされています3)
なお、骨髄不全が、PNHタイプ血球の増加を伴うものか、そうでないかを判断するためには、0.01%前後のPNH タイプ血球を正確に定量できる高感度法を用いる必要があります。

  • 高感度フローサイトメトリーは保険適用外
図2:フローサイトメトリーによる健常人とPNH患者の血球分布の比較(海外データ) 図2:フローサイトメトリーによる健常人とPNH患者の血球分布の比較

図2:フローサイトメトリーによる健常人とPNH患者の血球分布の比較

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)のスクリーニングとフォローアップ

スクリーニング

臨床現場で、血清LDH 値上昇、網状赤血球数の増加や血清ハプトグロビン値の低下など、血管内溶血を疑う所見を認めた場合は、クームス試験によりAIHA を除外診断し、フローサイトメトリーによるPNH タイプ血球のスクリーニングを行います(図3)3)
尿中にヘモグロビンやヘモジデリンを認めた場合や、腎障害を認める患者さんにおいても、同様に溶血の評価を行いPNH タイプ血球のスクリーニングを行います。
上述した骨髄不全や原因不明の血栓症を来した患者さんで血管内溶血の存在が疑わしい場合にも同様にPNHスクリーニングを行う必要があります。

図3:PNHスクリーニング 図3:PNHスクリーニング
  • IDA:鉄欠乏性貧血、MDS:骨髄異形成症候群
  • まれな部位とは、肝静脈(バッド・キアリ症候群)、他の腹腔内静脈(門脈、脾静脈、内臓静脈)、脳静脈洞、皮膚静脈など。
  • 高感度フローサイトメトリーは保険適用外

図3:PNHスクリーニング

フォローアップ

PNH クローンが検出された場合は、定期的にそのサイズをフォローする必要があります。
これは、クローンサイズが一定のまま推移する症例が多い一方で、急速に拡大する症例もあるためです。
PNH クローンサイズの変化をより正確に評価する上では、赤血球だけでなく顆粒球においても定期的にフローサイトメトリーで調べることが望ましいとされています。
特にLDH の上昇がみられた際には、その原因がPNH クローンの拡大によるものかどうかを調べる必要があります。LDH 値の上昇傾向がない場合は1年に1回程度のフォローアップで十分とされています3)
PNHは、再生不良性貧血を代表とする後天性骨髄不全疾患としばしば合併・相互移行するとされています(PNHの合併症と転帰)。
本邦において高感度フローサイトメトリーを用いた2,402例の末梢血サンプルを対象に前向きに調査した結果、48.3%のAA患者で微少のPNHタイプ赤血球が検出され、うち9.6%はクローンサイズが1%以上でした。また、51.5%のAA患者で微少のPNH顆粒球クローンが検出され、うち27.8%はクローンサイズが1%以上でした(図4)5)

  • 高感度フローサイトメトリーは保険適用外
図4:AAにおけるPNH顆粒球クローンの頻度 図4:AAにおけるPNH顆粒球クローンの頻度
試験概要
AAまたはMDS患者におけるPNH型細胞の有病率と臨床的関連性を明らかにするため、全国規模の多施設観察研究において、高感度フローサイトメトリーを用いて、患者2402人(AA1075人、MDS900人、PNH144人、その他の貧血283人)の末梢血サンプルを前向きに調査した。
PNH:発作性夜間ヘモグロビン尿症  AA:再生不良性貧血 MDS:骨髄異形成症候群

図4:AAにおけるPNH顆粒球クローンの頻度

同試験において、2,402例の末梢血サンプルを3年間追跡した結果、クローンサイズの変化が登録時のクローンサイズによることが示唆されました(図5)5)
すなわち、登録時のPNH顆粒球クローンサイズが1%以上であった患者さんのうち27.0%で、PNH顆粒球の割合が10%以上増加を認めたことから、定期的なPNH血球測定を行う意義が示されました。

  • 3年間追跡した結果、PNH顆粒球が増加する患者が存在しました。
  • 登録時にPNH顆粒球クローンサイズ1%以上だった患者では、27.0%が増加したことから、定期的にPNH血球測定を行う意義があると示唆されます5)
図5:AAにおけるPNHタイプ血球測定の意義 図5:AAにおけるPNHタイプ血球測定の意義
試験概要
AAまたはMDS患者におけるPNH型細胞の有病率と臨床的関連性を明らかにするため、全国規模の多施設観察研究において、高感度フローサイトメトリーを用いて、患者2402人(AA1075人、MDS900人、PNH144人、その他の貧血283人)の末梢血サンプルを前向きに調査した。
AA:再生不良性貧血 PNH:発作性夜間ヘモグロビン尿症 MDS:骨髄異形成症候群
  • 高感度フローサイトメトリーは保険適用外

図5:AAにおけるPNHタイプ血球測定の意義

1)
Borowitz MJ, et al. Cytometry B Clin Cytom. 2010;78(4):211-230.
[利益相反:本ガイドラインはAlexion Pharmaceuticals, Inc.の支援によって策定された。著者にAlexion Pharmaceuticals, Inc.の顧問が含まれる。著者にAlexion Pharmaceuticals, Inc.より研究助成金等を受領している者が含まれる。]
2)
Richards SJ, et al. Clin Lab Med. 2007;27(3):577-590.
3)
発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4 年度改訂版, 2023年3月.
4)
Richards SJ, et al. Cytometry. 2000;42(4):223-233.
5)
Ishiyama K, et al. Br J Haematol. 2023;203(3):468-476.
[利益相反:著者にアレクシオンファーマ合同会社より謝礼金、顧問料、研究助成金等を受領している者が含まれる。]

【監修】大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学
招聘教授 西村 純一 先生

作成年月:2024年9月

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